ダゴン

2020-06-24

ダゴン(原題:DAGON)

評価 ★★★☆☆(星3つ)

海底遺跡で人魚に襲われる、そんな奇怪な夢を繰り返し見る主人公・ポールは妻の誘いで友人夫妻とボート旅行に向かう。しかし突如の嵐で船は難破。沿岸にある港町に救助を求めるが、そこは海の邪神を崇拝し人を生贄に捧げる邪教徒の町であった。住人の手を逃れ、古い屋敷に逃げ込んだ主人公の前に美しい少女が現れる。「あなたのこと、待っていたわ。ずっと…」そう囁く彼女の顔は、夢で見た人魚そのものだった…。

あらすじ

主人公・ポールは悪夢に悩まされていた。それは、ダイビング中に海底遺跡を発見し人魚のような女性に襲われるというものであった。仕事の疲れが祟ったのかと考えたポールは妻バーバラと友人夫妻であるハワードとビッキーらと共にボート旅行に出かける。行き先は妻の故郷でもあるスペイン。しかし、不運なことに嵐に見舞われ座礁してしまう。友人の妻ビッキーは足を負傷、船底を破損したボートもみるみる浸水。奇妙なことに、船に満ちてくる海水は墨を溶かしたような黒い濁りがあった。ポールと妻のバーバラは友人夫婦を船に残し、救助を呼ぶために沿岸の港町に救命ボートで乗り付ける。その町は、雨が振り、暗く、妙に青白い顔をした住人が多い。ポールが住民の協力のもと漁船で友人夫妻の救助に向かう間、妻のバーバラはホテルの電話で警察に連絡を試みるが、町の神父と住人に捉えられてしまう。何故だろうか、彼らは皆まばたきをせず、手には水かき状の皮膚が存在していた。一方、救助に向かったポールは船底から友人の妻ビッキーの血まみれの衣服を発見するのみだった。失意の中、町に引き返すと神父から「奥さんは別の町まで警察を呼びに行った。あんたはここで待つといい」と説明を受ける。不審がりながらも誘われるままにホテルの二階に部屋を取るポールだったが、フロントでバーバラのライターを発見する。また、奇妙なことにフロント係の首には3本の傷のような痕跡があった。町民への不信が確信に変わる中、ホテルの外に妙なざわめきを察知する。窓から伺い見ると、町民が集まりポールの滞在する部屋を指し示しながら何事か相談しているのだ。これはただごとでないと急いでドアに鍵をかけるがあえなく打ち破られてしまう。押し入る住民から逃れ、ポールは間一髪でバスルームの窓から脱出。二階から飛び降りて隣の建物の天井を突き破りなんとか着地。足を引きずりつつ身を隠す場所を探すと、食肉処理場のような不気味な場所に出る。そこには天井から吊られた豚肉に混じって人間の生皮、さらに友人ハワードの死体まで保管されていた。あまりのことに叫び声を上げてしまうポール。声を聞きつけた町民らが襲ってくる。ポールは妻のライターを使って建物に放火し逃走する。炎から逃げ惑う町民の中にはおよそ人間とはいえない姿のものも存在していた。路地裏に逃げ込んだポールはエゼキルという町の変わり者の老人に出会う。彼は他の町民とは違いポールを一目見るなり逃げ出そうとした。その様子からポールは彼に協力を求める。「何故村人は友人たちを殺したのか、何故自分たちが殺されねばならないのか」そう問いかけるポールにエゼキルはカタコトの映画で「彼らは殺して顔を奪う」と答える共に、この港町インボッカ(スペイン語で口の意味)の過去にまつわる話を始める。インボッカはかつてキリスト教を深く信仰し漁業で生計を立てる神の町(プエブロ・デ・クリスト)だった。しかし魚が取れなくなってしまう。不漁続きの中、幼いエゼキルも漁師である両親、町民らと共に協会で一心に祈りを捧げるが、効果はない。そこにカンバロという太平洋を横断したという船長が現れる。彼は教会で神を否定し無駄な祈りを捧げる町民を愚かだと断じる。自分の信仰する神ならば魚どころか黄金を与えてくれる――、そう嘯くカンバロは「偉大な神ダゴンを連れてくる」と言って教会を出て行く。その晩、町民らの見守る中、カンバロは夜の海に向かって振り香炉のような祭具を投げ入れ、奇妙な呪文をつぶやく「イア イア カトゥル、ファタガン」その呼び声に答えるように巨大な何者かが現れ、以後、町は大漁に恵まれた。浜には黄金すら流れ着くようになった。豊かになった町民はキリスト教への信仰を捨て、教会の十字架を破壊して邪神ダゴンのシンボルを掲げる。そして神父を撲殺したカンバロは、邪神ダゴンを崇拝する教団の大祭司として振る舞うようになった。やがて海から黄金が取れなくなると村を支配するカンバロは、キリストへの信仰を捨てられない村人を生贄として捧げた。エゼキルの両親もその中にいた。ダゴンを呼び出す呪文も、ダゴンの姿も「聞かなければよかった、見なければよかった」と語るエゼキルはここまでの話はすべて真実であり、この町に残る「人間」はもはや自分ひとりだと言う。にわかには信じられないポールだが、兎にも角にもこの村を脱出せねばならない。エゼキルの話では、この村で車を所有しているのはカンバロの孫ザビエルだけだという。噂をすれば影、ちょうど車に乗ったザビエルがやってくる。彼はひどく足が悪いようで両手に杖をついていた。エゼキルは「この街の住人は海に入れるように姿が変わる。ザビエルはすでに海で暮らせるが陸で生活している」と語る。エゼキルが住民を陽動している間にポールは車を奪おうとする。しかしかなりのドジを発揮し失敗。そのままザビエルの屋敷に逃げ込む。二階の部屋に隠れようとすると、そこには美しい女性が居た。奇しくもその顔は旅のきっかけとなった悪夢の人魚そのものであった。彼女はまばたきをしない。彼女もまたこの町の住人なのだ。君の姿を夢で見た、と告げるポールに彼女は「知ってる」と答える。「ウシア、ずっとあなたを待ってた。」ポールを歓迎する素振りの彼女(ウシア)は戸惑うポールに情熱的なキスをする。ポールもそれに答えベッドシーンに突入。夜着をはだける彼女の脇腹には鰓のような器官がある。それに気付かないのか行為を続行するポールであったが、シーツをまくって彼女の下半身を見るやいなや屋敷を飛び出してしまう。彼女には2本の脚の代わりにイカのような触手が生えていた。屋敷を出ると住民と戦闘。落ちていたホイールで応戦し民家に逃走。そこで少年に見咎められ少年の祖父のイカ感ある住民と戦闘。汚い便器に顔を押し込まれつつもなんとか勝利。しかし、逃げるポールに漁村らしく投網が降りかかりついに捉えられてしまう。目が覚めるとそこには妻のバーバラが居た。エゼキルと座礁事故の際に死んだかと思われた友人の妻のビッキーも居る。しかし様子がおかしい。負傷した右脚は膝の上から切り落とされ憔悴した様子である。ビッキーは「海の中で怪物に捕まった。おぞましい。怪物の子どもを身籠っている」と言う。ショックで夢を見たのだと落ち着けようとするが、エゼキルは彼女の言葉は真実だという。彼女は生贄として捧げられたのだと…。そうこうしているうちに住人たちが迫り戦闘が始まる。戦いのさなか、ビッキーは自ら腹部にナイフを刺し自害する。多勢に無勢、ついにポール達は捕らえられ磔にされてしまう。町の神父は拘束されたポールたちの前でダゴンの掟を語り、黄金でできたナイフを手に「イア イア カトゥル、ファタガン」と呪文を唱える。エゼキルはポールに「両親がわしに求めていたことを思い出させてくれた」と感謝を述べると「人間らしく死ぬ」といい新約聖書詩篇23篇『ダビデの詩』を諳んじながら皮を剥がれ絶命する。いよいよポールにも黄金の刃の切っ先が向けられる。「やめなさい!」血まみれの男たちを制止したのは屋敷で出会ったイカ足の女性、ウシアだった。「私の男だから助けた。今はわからなくてもいずれ理解する。あなたはこの町に残る」妻のバーバラは見逃してくれと懇願するポールに、ウシアは「もう一年も生贄がなく、ダゴンは求めている」と伝える。「あなたはここに残る。私と素敵なところに行く。そこには昨日も今日も明日もない。ただ永遠のみがある」狂気じみた目つきで語るウシア。逆らえないことを確信したポールは涙を流し彼女を受け入れる。ウシアはポールを儀式の場に運ぶようにと男たちに命じて退室する。開放されたポールはエゼキル殺害に使用されたナイフ類を手に取りその場に居た住人を次々と殺害。そして燃料のボトル缶を持って儀式の場である教会に向かう。予想に反し教会はもぬけの殻だった。しかしポールは教会の祭壇の横の棚から地下に続く隠し通路を発見する。地下ではウシアがバーバラを責め苛み、今まさにダゴンに捧げようとしていた。「地獄に落ちろ」と叫ぶバーバラにも余裕の表情で「我々は永遠に生きるのよ」と微笑み、底が海に通じる井戸のようなものへと沈めていく。呪文を繰り返し囃し立てる住民たちに人間の姿を保っているものは一人も居ない。ポールは熱狂する彼らに燃料を振りかけて火を放つ。パニックで散り散りになる住人たちをかき分け、ポールはバーバラを吊り下げている鎖の滑車を回す。海水から引き上げられたバーバラの身体は黒い墨のような物で覆われていた。「殺して」そういうバーバラを抱き寄せようとするポール。しかし、海面から触手が伸びてバーバラの身体を強引に拐っていってしまう。ポールの目の前には鉄輪に固定された状態で引きちぎられたバーバラの両腕のみが残されたのだった。慟哭するポールを住人が取り囲みタコ殴りにする。再び静止したのはやはりウシアであった。そこにウシアの父親であるザビエルが現れる。杖でポールを突くとウシアが止めに入る。ポールの服をめくり脇腹にある奇妙な傷跡を示す。するとザビエルは感激し「ずっと探していた。お前は外部の人間との間に作った私の子どもだ。本当の名はパブロ・カンバロだ」と言う。つまり、ウシアとポールは異母兄弟の関係であった。拒絶し、町を焼き払うと凄むポールにウシアは語りかける。「これは運命。わたし達、母は違うけど父は同じ。共にダゴンの子なのよ」なおも否定するポールに更に語りかける。「夢を見たでしょう。夢に導かれたの。夢は願望の現れ。あなたは私の兄で、―永遠に私と結ばれるの」同時にポールの身体にも変化が現れ始める。自身の体に脈打つ怪物の血筋に絶望したポールは燃料をかぶり焼身自殺を図る。ウシアに「可能性はない」と宣告し妻の形見となったライターで着火する。こうなると慌てるのはウシアである。彼女は炎に包まれたポールを抱え海底に繋がる井戸に身を投げる。青い光に包まれた海中では奇妙なことが起こる。全身やけどのポールは海中で異形としての本来の生命力を取り戻し、エラ呼吸まで始めてしまう。彼の精神は人間を辞める決意をしたのだ。傍らにはウシアが微笑みながら遊泳している。まるで冒頭の悪夢そのままのシーンである。現世への未練を捨てたポールはウシアと共にダゴンの海底遺跡の深部に進む。

”我々は暗黒の深淵を潜りぬけ、深海の者たちの巣で栄光に包まれ暮らすつもりだ”

H・P・ラヴクラフト著『インスマウスの影』の最後を引用し、映画は終わる。

感想

『ダンウィッチの怪』、『クトゥルフの呼び声』と並ぶラヴクラフトの代表作である『インスマウスの影』の映画作品である。クトゥルフ神話に馴染みがなくても「窓に!窓に!」や「いあいあ くとぅるふ ふぐたん」などのワードを目にしたことがある人は多いのではないだろうか。それらのパロディの元が『インスマウスの影』である。映画化に当たって大幅に脚本が変更されているが、湿っぽく陰鬱な雰囲気や、邪神崇拝の寂れた町、異形と化した住人たち、人と怪物の交わり、血族婚姻等などキーになる要素はそのまま。随所に散見されるB級ホラー的展開もご愛嬌、クトゥルフ神話に明るくなくても楽しめる作品になっている。作品への満足度を高める要因として外せないのが、血族婚姻の禁忌へ誘うウシアというイカ足魚人娘がなかなか可愛いのだ。白い肌に黒い大きな目が印象的な神秘性を感じさせる女性である。彼女の存在がこの映画の評価を高めていると言ってもいい。今でこそCGに若干のチープさを感じるが、原作の雰囲気をうまく表現した中々完成度の高い映像作品と言える。